
ドイツの展示会出展を控えた大手クライアントから、営業担当に電話が入りました。「今回配布するノベルティグッズ全品目について、製品単位のカーボンフットプリント(CFP)証明を添付してほしい」。マグカップ、エコバッグ、ボールペン——それぞれ1個あたりのCO2排出量を数値で証明しろ、と言われて途方に暮れる。
「うちは販促物の企画制作会社であって、環境コンサルじゃないんですが……」。従業員20名のノベルティグッズ会社にとって、CFPという言葉すら初耳だった方もいるかもしれません。でも、この要求は一過性のものではありません。
背景にあるのは、EU電池規則(Battery Regulation)を皮切りに、製品レベルのCO2情報開示がB2Bの取引条件になりつつある世界的な潮流です。電池だけでなく、繊維、建材、包装材、そして販促物にまで「1個あたりの環境負荷を数値で示せ」という要求が波及し始めています。
この記事では、(1) 企業レベルのCO2算定と製品レベルのCFPの根本的な違い、(2) なぜノベルティ業界でCFP対応が特に困難なのか、(3) 20名の企画制作会社を想定した業務シミュレーション、(4) 専門知識なしで対応を始める方法、を順に整理します。
企業CO2と製品CFPの根本的な違い
企業レベルのCO2と製品レベルのCFP——なぜ「まったく別の計算」なのか
結論から言うと、企業全体のCO2排出量(いわゆるScope 1/2/3)と、製品1個あたりのカーボンフットプリント(CFP)は、算定のアプローチがまったく異なります。
企業レベルのGHG算定は、会社全体で1年間にどれだけCO2を排出したかを1つの数字で出すものです。電気代、ガス代、車両の燃料——会社全体のエネルギー消費をまとめて計算する。出てくる答えは「年間○○ tCO2e」という1つの数字です。
一方、CFPはSKU(品目)ごとに個別算定が必要です。マグカップ1個、エコバッグ1枚、ボールペン1本——それぞれについて、原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄までのライフサイクル全体のCO2排出量を計算する。つまり、品目の数だけ計算が必要になります。
カーボンフットプリント(CFP)は、製品やサービスのライフサイクル全体(原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクル)を通じて排出される温室効果ガスの量をCO2に換算して表示する指標です。ISO 14067:2018がCFP算定の国際規格として位置づけられています。
——e-dash「カーボンフットプリント(CFP)とは?計算方法やメリット、企業事例を解説!」 https://accel.e-dash.io/article_0178/
日常のビジネスの言葉に翻訳すると、こういうことです。企業レベルの算定は「会社の健康診断」——1回の検査で全体の状態が分かる。CFPは「商品1個ずつのDNA鑑定」——品目ごとに材料の出所、加工方法、輸送経路をすべて追跡しなければならない。
さらに厄介なのが、表示ルールの国際的不統一です。EU、日本、米国でCFPの算定ルールや表示方法が異なります。同じマグカップでも、ドイツの展示会向け、日本国内向け、北米のバイヤー向けで別バージョンのCFPを管理する必要が出てくる。これが、企業レベルの算定には存在しなかった「CFP特有の地獄」です。
ISO 14067に準拠した算定を本格的に行うとなると、ISO規格文書の購入(英語原文)、LCAソフトウェアのライセンス(年間数十万〜数百万円)、LCAデータベース(ecoinvent等)の契約、さらに第三者検証費用(案件あたり数十万円〜)が必要になります。20名の販促物企画会社にとって、この初期投資は売上に対して無視できない比率です。
思考実験——ノベルティ企画20名の会社に何が起きるか
ここからは、具体的な業務シミュレーションで「製品レベルのCFP要求」が現場にどう影響するかを見てみましょう。あくまで構造を理解するための思考実験です。
想定企業プロフィール
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 業種 | 販促物・ノベルティグッズ企画制作 |
| 従業員数 | 20名 |
| 取扱SKU数 | 300品目以上(マグカップ、エコバッグ、ボールペン、タオル、USBメモリ等) |
| サプライヤー数 | 約50社(国内30社、海外20社) |
| 主な製品カテゴリ | 陶磁器・ガラス製品 / 繊維製品 / プラスチック・金属製品 |
| ESG専任者 | なし(営業部長が兼務) |
| データ管理方法 | 受発注はExcel、仕入先情報は紙ベース混在 |
なぜノベルティ業界のCFPは「特に困難」なのか
ノベルティグッズのCFP算定には、製造業一般とは異なる3つの構造的な難しさがあります。
第一に、多素材の複合製品が多い。 エコバッグ1枚をとっても、本体の布地(ポリエステルorコットン)、持ち手のテープ、ファスナー、印刷インク——複数の素材が組み合わさっています。素材ごとに排出係数が異なるため、1製品の算定でも材料の内訳データが必要です。マグカップなら陶磁器本体+釉薬+印刷+梱包材。ボールペンならプラスチック本体+金属クリップ+インク+包装。1品目あたりの素材数が多い分、データ収集の粒度が細かくなるのです。
第二に、注文ごとにサプライヤーが変わる。 ノベルティ業界では、同じ品目でも発注ロットや納期によって仕入先が切り替わることが日常です。先月のマグカップはA社の中国工場、今月はB社のベトナム工場——工場の所在国が変わればエネルギーミックスが変わり、排出係数も変わります。つまり同じ品目でも発注のたびにCFPが変動するのです。
第三に、小ロット多品種。 ノベルティグッズは1回の発注が100〜1,000個程度の小ロットで、年間数百件の発注が走ります。大量生産品なら1回の算定コストを大量の製品数で割り算できますが、小ロットでは1個あたりの算定コスト負担が重い。ISO 14067準拠のLCA算定を1品目あたり50万円で外注したとして、300品目なら1億5,000万円。これは20名の会社の売上規模では到底吸収できません。
手作業でCFP対応する場合の工数
| 作業項目 | 推定工数 |
|---|---|
| ISO 14067のルール調査・理解 | 40時間 |
| LCAソフトウェアの選定・導入・習得 | 60時間 |
| 50社のサプライヤーへの材料データ要求(素材別重量、製造エネルギー等) | 100時間 |
| サプライヤーからの回収データ整理・正規化 | 80時間 |
| 300品目のうち主要30品目のCFP個別算定 | 150時間 |
| EU / 日本 / 北米の表示ルール差異の調査・対応 | 30時間 |
| 第三者検証の準備・対応 | 40時間 |
| 合計(主要30品目のみ) | 約500時間 |
20名の会社で500時間。フルタイム換算で約3か月分です。しかもこれは300品目のうち主要30品目だけの算定工数であり、全品目に展開すれば数千時間に膨れ上がります。営業部長が本業の傍らでこれを処理するのは、構造的に不可能です。
さらに、LCAソフトウェアのライセンス料(年間50〜200万円)、LCAデータベースの利用料、第三者検証の費用を加えると、年間数百万円の固定コストが発生します。展示会のノベルティにそこまでのコストをかけられるのか——クライアントに正直に相談したくなる金額です。
Before/After:ノベルティ企画会社のCFP対応フロー
| 業務工程 | Before(手作業 + LCAソフト) | After(一次証憑自動抽出 + PCFエンジン) |
|---|---|---|
| サプライヤーへのデータ要求 | 50社に個別メール。素材別重量・製造エネルギー等を要求。多くが「そのデータは持っていない」と回答(100時間) | サプライヤーはLINE/WhatsApp/メールで請求書・納品書を送るだけ。ESGの専門知識は不要 |
| 材料データの正規化 | Excel・PDF・メール本文のデータを統一。単位変換、素材分類を手動実施(80時間) | AIが証憑から品目・重量・素材を自動抽出。正規化メトリクス体系で統一変換 |
| 品目別CFP算定 | LCAソフトで1品目ずつ入力。素材比率、輸送距離、廃棄シナリオを手動設定(150時間/30品目) | PCF配分エンジンが質量按分・経済按分を自動計算。PACT V3準拠のCFP値を自動生成 |
| 排出係数の適用 | LCAデータベースから手動検索。サプライヤー所在国ごとに異なる係数を個別適用 | 18地域以上の排出係数エンジンが、サプライヤーの所在地に基づき自動適用・自動更新 |
| 表示ルール対応(EU / 日本 / 北米) | 地域ごとの規則を調査し、品目ごとに複数バージョンを手動作成(30時間) | マルチフレームワークアダプターが同一データから地域別フォーマットを同時生成 |
| 監査証跡の確保 | LCAソフトの計算ログ+Excelの参照元を手動記録 | 暗号台帳が全算定プロセスを自動記録。改竄は物理的に不可能 |
| 合計(主要30品目) | 約500時間 + LCAソフト年間50〜200万円 | 請求書・納品書の転送のみ |
社内FAQ——CFP(製品カーボンフットプリント)に関する社内の疑問
| 想定質問 | 回答 |
|---|---|
| 「CFPと普通のCO2算定は何が違うの?」 | 通常のGHG算定は会社全体で1つの数字。CFPは品目ごとに個別算定が必要です。300品目あれば300回の計算が必要になるイメージです |
| 「全品目やらないとダメ?」 | バイヤーの要求次第ですが、まず売上上位の主要品目から着手するのが現実的です。展示会で配布する品目に絞れば、対応数はぐっと減ります |
| 「ISO 14067って何?守らないとペナルティがある?」 | CFP算定の国際規格です。法的罰則はありませんが、バイヤーが「ISO準拠のCFP」を指定してきた場合、取引条件として事実上必須になります |
| 「サプライヤーに材料データを聞いても答えてくれない」 | これが最大のボトルネットです。サプライヤーに「排出量を計算して」とお願いするのではなく、請求書や納品書を送ってもらうだけで済む仕組みが必要です |
| 「LCAソフトを導入すれば解決する?」 | LCAソフトはあくまで計算ツール。入力データの収集と正規化(50社からバラバラに届くデータを統一する作業)は自動化されません。導入しても工数の大半は残ります |
| 「ドイツの展示会に間に合わせるには何から始めれば?」 | まず展示会で配布する品目(3〜5品目)に絞り、各品目のサプライヤーから請求書・納品書を集める。品目別の按分計算は自動化ツールに任せ、2〜4週間で主要品目のCFP証明を揃えるのが現実的なアプローチです |
「ISO規格もLCAも分からないけど、どうすれば?」——Marupass
ここまで読んで、「構造は理解した。でも20名の会社で、何から手をつければいいのか」と感じた方へ。Marupassは、ノベルティ企画会社のような「多品目・多素材・多サプライヤー」の企業が、専門知識なしでCFP対応を始められるよう設計されたサービスです。
Q. 300品目全部を一度にCFP算定する必要がある?
ありません。MarupassのPCF配分エンジンは、サプライヤーから届いた請求書・納品書をもとに、品目ごとの質量按分・経済按分を自動計算します。まず展示会向けの3〜5品目から始め、データが蓄積されれば他の品目にも自動展開されます。PACT V3準拠のCFPパスポートが自動生成されるため、国際的なバイヤーへの提出にも対応できます。
Q. サプライヤー50社に材料データを聞いて回る余裕がない
Marupassのサプライヤー取り込みは、LINE、WhatsApp、メール転送のいずれかで請求書を送ってもらうだけです。サプライヤーに「LCAデータを算定してExcelに記入してください」とお願いする必要はありません。AIが証憑から素材・重量・金額を自動抽出し、18地域以上の排出係数エンジンがサプライヤーの所在国に応じた係数を自動適用します。
Q. EU・日本・北米でルールが違うと聞いたけど、全部対応が必要?
Marupassのマルチフレームワーク・コンプライアンスアダプターが、同一の統合台帳から地域別のフォーマットを同時生成します。PACT V3、CBAM、SSBJ——バイヤーがどの規格を要求しても、データの再入力は発生しません。
Marupass
オンライン ・ 暗号化済み
こんにちは、株式会社まんまる企画さん。先月分の電力請求書をお送りいただけますか?
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電力請求書_2026年2月.pdf
PDF ・ 142 KB
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まとめ
製品単位のCFP証明は、企業レベルのCO2算定とは根本的に異なる「品目ごとの個別算定」です。300品目×50社のサプライヤー×国際ルールの不統一——この掛け算が、20名のノベルティ会社にとって手作業では構造的に不可能な工数を生み出します。
対応の第一歩は、全品目を一度にやろうとしないこと。展示会で配布する3〜5品目に絞り、該当サプライヤーの請求書・納品書を集めるところから。Marupassの無料診断で、まず1品目のCFP概算値が確認できます。