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「DPPは付いていますか?」——欧州展示会で聞かれた3文字に、従業員50名の照明OEMはどう答えるか

欧州展示会で「DPPは付いていますか?」と聞かれた照明OEM50名の対応を解説。ESPR(エコデザイン規則)が求める素材構成・製造CO2・修理可能性・輸送データを製品1個単位で構築する実務を整理。

#DPP#ESPR#デジタル製品パスポート

欧州展示会で突きつけられたデジタル製品パスポート


Light+Buildingの自社ブース。ドイツの大手照明ブランドのバイヤーが、展示品のLEDダウンライトを手に取り、こう尋ねた。「DPPは付いていますか?」。OEM営業担当者はカタログの仕様表を開いたが、DPPという項目はどこにもない。調光方式でもない。IP等級でもない。演色性でもない。帰国後に調べて初めて分かった——デジタル製品パスポート。製品の環境データを、QRコードやRFIDで1個単位で追跡可能にするEUの新制度だった。

この記事では、(1) DPPとは何か——その法的根拠である**ESPR(エコデザイン規則)**の構造、(2) 照明OEMにとって何が変わるのか、(3) 従業員50名の照明OEMを想定した業務シミュレーション、(4) 専門知識なしでDPP対応データを構築する方法、を順に整理します。


ESPR/DPPが求める製品単位データの連鎖

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ESPRとデジタル製品パスポート——「製品1個ごとに環境データを付けなさい」

結論から言うと、EUは2024年7月に採択したESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)により、EU市場に流通するほぼ全製品に対して、製品単位の環境データ開示を義務化する方向に動いています。その中核が「デジタル製品パスポート(DPP)」です。

ESPR(Regulation (EU) 2024/1781)は、2024年7月に正式採択されたEU規則。欧州グリーンディール → サーキュラーエコノミー行動計画(CEAP)の下位規則として、従来のエコデザイン指令(2009/125/EC)を全面的に置き換える。対象はエネルギー関連製品に限定されず、ほぼ全製品カテゴリに拡大。製品設計段階から耐久性・修理可能性・リサイクル性・環境影響の要件を義務化する。DPPはESPR第3章に基づく情報開示ツール。

——Booost Technologies「ESPR:持続可能な製品のためのエコデザイン規則とは?」 https://booost-tech.com/media/column-058/

この規制が照明器具OEMに届く経路を、3段階で整理します。

第1段階:EU → 製品カテゴリ別の委任法。 ESPRの作業計画(2025-2030)が2025年4月15日に公表され、製品カテゴリごとに具体的要件を定める委任法(Delegated Act)のスケジュールが示されました。鉄鋼は2026年、アルミニウムは2027年が優先対象です。照明器具はまだ明示されていませんが、筐体にアルミダイキャストを使用するLED照明は、素材レベルで波及を受ける構造にあります。

第2段階:EU完成品ブランド → OEMサプライヤー。 DPPは「製品単位」のトレーサビリティを要求します。ドイツの照明ブランドが自社製品にDPPを付与するには、OEM先である日本の工場から「この製品に使われたアルミ筐体の素材構成」「製造時の電力消費」「輸送時のCO2排出」といったデータを受け取る必要があります。ブランド側はDPPなしでは製品をEU市場に流通できなくなるため、OEMに対するデータ要求は「お願い」ではなく「取引条件」になります。

第3段階:OEM → 部品サプライヤー。 OEM自身がDPPデータを構築するには、アルミダイキャスト筐体、LEDモジュール、電源ドライバ、レンズ——それぞれの部品サプライヤーから素材構成と環境データを収集しなければなりません。サプライチェーンの各層が、自分の層のデータを提供する連鎖です。

前身のエコデザイン指令(2009年)は「エネルギー消費の多い製品」に限定されていました。LED照明は既にこの指令の対象でしたが、要求されていたのはエネルギー効率(lm/W)や寿命(時間)など、照明の「使用段階」の性能データだけです。ESPRはこの範囲を製品のライフサイクル全体——素材調達、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクル——に拡大します。「何ワットで何ルーメン出るか」だけでなく、「この製品を作るのにどれだけCO2を排出したか」「素材は何パーセントがリサイクル可能か」を問われる時代への転換です。


思考実験——従業員50名の照明OEMに何が起きるか

ここからは、具体的な業務シミュレーションです。あくまで構造を理解するための思考実験であり、特定の企業を描写するものではありません。

想定企業プロフィール

項目設定
業種OEM照明器具製造(LED照明、業務用照明器具のOEM)
従業員数50名
製造品目LED商業用ダウンライト、スポットライト、パネルライト
EU向け売上比率約20%(ドイツ系照明ブランドにOEM供給)
主要原材料アルミダイキャスト筐体、LEDモジュール、電源ドライバ、レンズ
部品サプライヤー数12社(中国5社、台湾3社、国内4社)
ESG専任者なし(品質管理課長が兼務)
現在のBOM管理社内ERPの部品表(環境データ紐づけなし)

DPPが要求するデータフィールド——照明器具の場合

DPPは「製品1個につき1パスポート」の概念です。この照明OEMがドイツのブランドから求められるデータ項目を整理すると、少なくとも以下の領域をカバーする必要があります。

データ領域具体的なデータ項目現在の取得可否
素材構成アルミ筐体の重量・合金種・リサイクル材含有率、LEDモジュールの希少金属含有量、レンズのプラスチック種別BOMに重量のみ。リサイクル材比率・合金種は未管理
製造エネルギーダイキャスト工程の電力消費、SMT実装ラインの電力消費、組立工程の電力消費——すべて製品1台あたり工場全体の月次電力量のみ。製品別の配賦なし
輸送工場→港→EU倉庫の輸送距離・輸送手段・CO2排出物流会社の請求書に記載なし
リサイクル性分解容易性スコア、素材分離可能性、有害物質含有(RoHS/REACH対応状況)RoHS適合証明はあるが、分解容易性の評価はなし
修理可能性交換可能部品の有無、修理マニュアルの提供状況、部品供給期間LEDモジュールは交換可能だが、修理スコアの算定はなし
カーボンフットプリント製品1台あたりのCO2排出量(Scope 1+2+3)算定実績ゼロ

問題の核心は、現在のBOMには「重量」と「品番」しかないという点です。環境データが紐づいていないBOMでは、DPPが要求する情報の大半を構築できません。

手作業で対応する場合の年間工数

品質管理課長が兼務でDPPデータの整備と報告を行う場合の工数を推定します。

作業項目推定年間工数
12社のサプライヤーに環境データ質問票を送付・回収・督促36時間
回収データの整合性チェック(単位変換、欠損値の確認)12時間
月次電力使用量の製品別配賦計算(製造ライン稼働時間按分)18時間
ダイキャスト工程のエネルギー原単位算出10時間
素材構成データのBOMへの手動紐づけ(3製品分)14時間
リサイクル性・修理可能性の自己評価シート作成12時間
輸送ルートのCO2排出量調査・算定8時間
製品カーボンフットプリント(PCF)の統合計算16時間
ドイツ系ブランド向けDPPフォーマットへのデータ転記14時間
他の取引先(国内含む)からのESG質問票への対応20時間
前年データとの整合性確認・差異分析10時間
ESPR委任法の更新情報の調査10時間
年間合計約180時間

180時間。フルタイム換算で約22.5営業日——1か月以上です。品質管理課長が製品検査、工程改善、ISO監査対応を抱えながら、毎年1か月分をDPPデータ整備に費やす計算です。

しかも、ここで最も深刻な問題が3つあります。

問題1:サプライヤー12社からのデータ回収が最大のボトルネック。 中国5社、台湾3社、国内4社——言語も管理体制も異なるサプライヤーに「アルミ筐体のリサイクル材含有率を教えてください」と質問票を送っても、回答が揃うまでに3〜6か月かかることは珍しくありません。1社でも未回答なら、製品全体のDPPデータは完成しません。

問題2:「製品1台あたり」の按分計算が複雑。 工場の月次電力使用量は分かっても、それを「ダウンライト1台あたり何kWh」に按分するには、製造ラインの稼働時間データ、製品別の生産数量、工程ごとのエネルギー消費比率——複数のデータソースを突合する必要があります。手計算では精度も再現性も担保できません。

問題3:OEMは複数のブランドに供給している。 ドイツ系ブランドA社はCatena-X形式のDPPを求め、フランス系ブランドB社は別の形式を求めるかもしれない。同じ製品の同じ環境データを、取引先ごとに異なるフォーマットで提出する作業が発生します。ブランドが増えるたびに、この工数は線形に増加します。


Before/After:照明OEMのDPPデータ構築フロー

業務工程Before(手作業+BOM紐づけなし)After(統合台帳+製品配賦エンジン型)
サプライヤーからの環境データ収集12社に個別メール送付→督促→3〜6か月(36時間/年)SAQ Shield(質問票自動配信)で一括回収、回答状況をリアルタイム追跡
月次電力量の製品別配賦製造ライン稼働時間を手動で按分計算(18時間/年)PCF配賦エンジンが質量配賦・経済配賦を自動計算、製品1台あたりのkWhを算出
排出係数の調査・適用環境省DBを手動検索、中国・台湾の係数を個別調査18地域以上の排出係数エンジンが国別・資源種別で自動適用
素材構成の文書化BOMに環境データを手動で追記(14時間/年)統合台帳が30のESG指標を製品・素材・工程に自動紐づけ
製品カーボンフットプリント算定手計算で統合(16時間/年)PCF配賦エンジンがScope 1+2+3を製品単位で自動統合
DPP/取引先レポート生成取引先ごとに個別フォーマットで転記(34時間/年)同一データからCBAM・PACT・Catena-X DPP・ESRS等を同時自動生成
監査証跡の確保Excel転記では構造的に不可能**暗号台帳(WORM)**が全データを改竄不能な形で連鎖記録
年間合計約180時間(約22.5営業日)月次の請求書転送+サプライヤー回答の確認のみ

「DPPは付いていますか?」に答えるために——Marupass

ここまで読んで、「DPPの構造は理解したが、品質管理課長1人で12社のサプライヤーデータを集められるのか」と感じた方へ。Marupassは、まさに「ESG専任者がいないが、製品単位の環境データを求められている」製造業のOEM・SMEに向けて設計されたサービスです。

Q. 製品1台あたりのCO2排出量をどう計算するのか

MarupassのPCF配賦エンジンは、工場全体のエネルギーデータ(電力・ガスの請求書をメール転送するだけで取り込み可能)と製品別の生産数量から、質量配賦経済配賦の2方式で製品1台あたりのカーボンフットプリントを自動算出します。「ダウンライト1台あたり○○ kgCO2e」という数字が、請求書の転送だけで得られます。

Q. 12社のサプライヤーから環境データを集めるのが大変

MarupassのSAQ Shieldは、サプライヤーに対して標準化された環境データ質問票を自動配信し、回答状況を追跡します。LINE・WhatsAppからの回答にも対応しているため、中国や台湾のサプライヤーにも言語の壁を低くして回収できます。回答データは製品のBOMに自動紐づけされます。

Q. Catena-X形式のDPPデータって自分で作れるのか

作れません——普通は。しかし、Marupassのマルチフレームワーク変換は、同一の統合台帳からCatena-X DPP(AAS/デジタルツイン形式)、CBAM、PACT V3、ESRS等の出力を同時に生成します。ドイツのブランドがCatena-X形式を求め、国内の取引先がSSBJ形式を求めても、データの二重入力は発生しません。

Q. 「このデータ、改竄されていませんか?」と聞かれたら

Marupassの暗号台帳(WORM型台帳)は、一度記録されたデータの削除・書き換えがシステムレベルで不可能です。請求書の原本から、AI抽出、排出係数の適用、製品配賦の計算まで——全工程が暗号チェーンで連結されます。DPPが求める「トレーサビリティ」とは、まさにこの改竄不能な計算過程の記録のことです。

Q. ESPRの委任法がまだ照明器具に適用されていないのに、今から準備する必要があるのか

必要があります。理由は2つ。第一に、照明器具の主要素材であるアルミニウムは2027年に委任法の対象となる見込みです。製品レベルの規制が来る前に、素材レベルで要求が始まります。第二に、ドイツ系ブランドのバイヤーはすでに「DPPは付いていますか?」と聞いています。EUの規制スケジュールを待たず、調達基準として先行適用されるのがサプライチェーンの現実です。


社内FAQ——DPP・ESPRに関する社内の疑問

想定質問回答
「DPPって何?RoHSやREACHとは違うの?」RoHS/REACHは「有害物質の使用制限」。DPPは「製品1個ごとの環境・循環性データの開示」です。制度の目的が根本的に異なります。RoHS適合証明を持っていてもDPPの代わりにはなりません
「うちはOEMだから、DPPはブランド側の責任では?」DPPを付与するのはブランド側ですが、DPPに記載するデータ(素材構成、製造エネルギー、CO2排出)を提供するのはOEMの責任です。ブランドはOEM先がデータを出せない場合、別の工場に切り替える選択肢があります
「中国のサプライヤーが環境データを出してくれるのか?」出さなければ、その部品はDPP対応製品に使えなくなります。サプライチェーン全体でデータが揃わなければ、製品のDPPは完成しません。データ提供は取引継続の条件になります
「設計変更が必要なのか?コストはどれくらい?」ESPRは修理可能性・リサイクル性を「設計段階から」求めます。ただし、LED照明は元々モジュール交換設計が主流であり、修理可能性スコアは比較的高い分野です。まず現状の設計を評価し、不足箇所を特定することが先決です
「今のERPのBOMで対応できないのか?」現在のBOMには重量と品番しかありません。ESPRが求めるのは、各部品の素材構成、リサイクル材含有率、有害物質情報、CO2排出原単位です。BOMの構造そのものを拡張するか、環境データを紐づける外部システムが必要です
「まだ委任法が出ていない照明器具で、急ぐ理由は?」アルミニウムの委任法は2027年予定。照明器具の筐体はアルミダイキャストが主流であり、素材レベルで規制が先行します。また、取引先のバイヤーは規制の施行を待たずに調達基準として要求を始めています


WORM AUDIT LEDGER

IMMUTABLE ・ APPEND-ONLY ・ SHA-256

LIVE
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DOCUMENT_INGESTED請求書取込
2026-05-13 21:21:58 UTC#847293

電力請求書_2026年2月.pdf → 株式会社しまうまライティング

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SHA-256 ハッシュ → 改竄不能台帳に記録

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2026-05-13 21:24:58 UTC#847297

Adversarial Auditor: PASS(脆弱性 0件)

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WRITE-ONCE READ-MANY ・ 削除不可 ・ 監査人閲覧可
INTEGRITY: VERIFIED

まとめ

ESPRは、EUが「売ったら終わり」の製品設計を許さなくなった規則です。その中核であるDPPは、製品1個ごとに環境データを紐づけ、QRコードやRFIDで誰もが追跡できるようにする制度です。照明器具はまだ委任法の直接対象ではありませんが、筐体素材のアルミニウムは2027年に対象となり、EUのブランドバイヤーはすでに調達基準として先行要求を開始しています。

従業員50名の照明OEMにとって、DPP対応の本質は「環境の専門知識を獲得すること」ではありません。いま手元にある電力請求書とBOMを、製品1台あたりの環境データに変換できる仕組みを持つことです。12社のサプライヤーからデータを集め、製品別に配賦し、取引先ごとのフォーマットで出力する——この一連の作業を、品質管理課長の年間180時間ではなく、システムの自動処理に委ねられるかどうかが、次の受注を左右します。

最初の一歩は、先月の工場の電力請求書を1枚、メールで転送してみること。Marupassの無料診断で、自社工場の製品1台あたりのCO2排出がどの水準にあるかが可視化されます。「DPPは付いていますか?」と聞かれたとき、「準備しています」と答えられる状態は、その1枚から始まります。

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